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最高裁判所第三小法廷 昭和40年(オ)1499号 判決 1967年4月18日

上告人

石橋正敏

ほか三名

右三名訴訟代理人

中村達

被上告人

株式会社親和銀行

右代表者

田中正治

右訴訟代理人

安田幹太

安田弘

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人中村達の上告理由第一点について。

民法八二六条にいう利益相反行為に該当するかどうかは、親権者が子を代理してなした行為自体を外形的客観的に考察して判定すべきであつて、当該代理行為をなすについての親権者の動機、意図をもつて判定すべきでないとした原判決の判断は正当であつて、これに反する所論は採用できない(昭和三六年(オ)第一〇一三号同三七年二月二七日第三小法廷判決、最高裁判所裁判集民事五八号一〇二三頁参照)。

論旨は、本件各約束手形(論旨は、甲第一号証ないし第一〇号証というが、乙第一号証ないし第一〇号証の誤記と認める。)は上告人ら三名の親権者たる晴義がその法定代理人として振り出し、かつ、晴義個人としても振り出したもの、すなわち上告人らと晴義との共同振出にかかるものであるから、共同振出人相互の関係において利益相反が考えられるところ、この点について原判決の判断には、法律解釈の誤り、理由不備の違法があるという。

しかし、原判決は、挙示の証拠関係に徴し、所論手形行為の原因関係たる貸付は上告人ら自身が債務者となり、晴義はその連帯保証人となつたものであること、および、本件各手形はいずれも右借受金支払のために振り出されたものであることを認定し、右事実関係を外形的に観察した場合、代理人らと親権を行なう晴義との間に民法八二六条所定の利益相反関係は存しない旨判示しているのであるから、所論理由不備はなく、かつ、その判断は首肯できる。また、所論挙示の大審院判例は、いずれも本件と事実関係を異にするものであつて、原判決に右判例違反はない。

したがつて、論旨はすべて採用できない。

同第二点について。

本件借受金は晴義の経営する所論会社の営業資金に充てられるものであること、したがつて上告人ら名義を使用して晴義がこれを借り受けるものであり、晴義によつて代理された上告人らの意思表示はその真意に出たものでないことを被上告銀行が知つていたとの所論は、原審の認定にそわないことをいうものである。原判決が右事実を認定できないとした点に所論違法はない。

論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨、事実の認定を非難するに帰着し、すべて採用できない。

同第三点について。

原判決が、その認定の事実関係のもとで、晴義の本件代理行為の効力を否認するに足りる背信性、反道徳性はないとした判断に所論違法はない。

論旨は、原審認定にそわないことを前提として原判決の違法をいうものであつて、採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(横田正俊 柏原語六 田中二郎 下村三郎 松本正雄)

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